今日、頭を通り過ぎていったこと…

もうしょうがないので、ジャンルを限定せずに…

子どもの「うつ病」に抗うつ薬は効かないのか?

https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2017.16091059

 

Antidepressant Efficacy for Depression in Children and Adolescents: Industry- and NIMH-Funded Studies

 

最新のAm J Psychiatryの記事からです。 「子どもには抗うつ薬が効かない、効く可能性は低い、と言われているが、本当なのか?」という問いです。

 

そもそも、なぜこんな問いがあるのか?というと、主には製薬会社が行なった臨床試験の結果として、子どもの「うつ病」に対してはSSRIなどの現在の主力の抗うつ薬はあまり効果がない、ということになっているからです。 ところが、製薬会社ではなく、国が主導してちゃんとした研究者が行なった大規模研究の結果は、子どもの「うつ病」に対してもSSRIなどの主力抗うつ薬はかなりちゃんとした効果を期待できる、ということになっています。

 

いったい、なぜこんなに結果の違いを生じているのか? しかも、製薬会社の行なった研究が製薬会社の利益になるような結果(子どもにも効く)となるなら「ああ、スポンサー効果ね…」(これはこれで問題なのですが、臨床研究では必ず起こってくる問題です)と納得できる(?)のですが、意外や意外、製薬会社の行なった研究結果では「あまり効果なし」であり、国が行なった研究結果では「ちゃんと効果あり」となっているので、ますます謎なのです。

 

一昔前は、それどころか「子どもにも抗うつ薬を使うと自殺のリスクが高まる」という誤解もありました。(今の時代、もはやこんな誤解を信じている専門家はいないでしょう。 しかし素人の方はまだ信じているかもしれません。この問題の真相究明の話は、それはそれで面白いので、いずれまた取り上げるかもしれませんが、結論だけ言うと、抗うつ薬を使って治療をしていくと「自殺のリスクが高まる」のではなく「自殺をしたい気持ちがあることを伝える行動が増える」というのが答えです。 ちなみに、「うつ病」に対して「認知行動療法」を行なっても、当然のように「自殺をしたい気持ちがあることを伝える行動が増える」ことが知られており、これはたぶん自殺リスクの上昇を意味しているのではなく、ただ治療が進んでいること、コミュニケーションが改善していっていることを意味しているのだろう、と言うのがオーソドックスな読みです。)

そのうえ、「子どもには抗うつ薬が効かない、あるいは効きが悪い」となったら、そりゃ一般の臨床医は子どもに抗うつ薬なんか使いたくなくなります。 親だって使わせたくなくなります。 たとえ副作用がほとんどなかったとしても、お金の無駄ですから。

 

では、真相はいったいどうなっているのか?

 

その議論をしているのが、上記論文でした。

 

その答えは、まあまあ当たり前といえば当たり前、「製薬会社の行う臨床試験は、良い加減すぎてデータの集め方に問題がありすぎて、信用できないものになってしまっている」ということです。

その根拠の一つが、「本物の抗うつ薬」ではなく「偽物の薬=プラセボ」を与えられた子どもの症状改善率の異常な良さです。 つまり、やく50%もの「プラセボ」を与えられただけの子どもたちが、平気で症状が改善しているのです。 …ってことは、この子どもたちは、本当に「うつ病」だったの? と言うことになります。

 

それ以前から、専門家の間では、しばしば「子どもという年齢で、本当に「うつ病」なんて存在するのか? それは大人のうつ病と同じ種類の問題とみなして良いのか?」という議論がありました。 理由は簡単です。 子どもに見られる「心の問題」の大部分が、その子自身の問題ではなく、実際には両親の問題、家族の問題の反映にしかすぎないからです。 (このため、思春期前の子どもの心理的な問題に対しては、その子自身を対象とする精神療法よりも、家族を対象とする家族療法の方が効果が大きいことが少なくないのです。)つまり、一見すると「子どものうつ病」のように見えている問題は、実際には家族の問題で不幸になっているだけ、なのではないか? と言うことです。

 

では、製薬会社が行なった臨床研究にはどんな問題があったか? 上記論文が問題視するのは、金銭的なインセンティブです。 製薬会社は開発した薬のパテントが切れるまでに開発コストを回収し、利益を最大限に得なくてはなりません。 この頃の米国では、政府が「子どものうつ病に対して抗うつ薬が有効かどうかを証明しなさい。証明できたら、パテントの有効期間を延長してあげる(その薬の売り上げで儲けさせてあげる)」と製薬会社に要求してきたのです。 製薬会社はこぞって「子どものうつ病に対する有効性」を確認するための臨床研究を即席でスタートしました。 即席でスタートしたうえに、開発コストを抑えるために、またしてもインスタント研究者を使い、データ収集を各医療機関に丸投げしました。 もともと「本物の子どものうつ病」などそう多くはないと見られています。 しかし、製薬会社は儲けを得るために必死ですから、「本物のうつ病」かどうかは別にして、「なんか鬱っぽくなってしまっている子ども」でもなんでも、とにかく対象患者数を増やすために臨床研究に入れたのではないか?と見られます。 つまり、製薬会社が行なった「子どものうつ病」の臨床研究は、本当は「本物のうつ病」の子どもではなく、「(家庭環境やらなんやら、いろいろな理由で)不幸になっている」子どもだったのだろう…ということです。 だからこそ、「プラセボ」でのあの反応率の良さなのです。(これに比べて、国が行なったちゃんとした大規模研究では、プラセボ反応率は20〜30%程度におさえられているのです。)

 

結論として、製薬会社の行なった研究結果はクオリティが低すぎて信用できるものではない。 より信用できる国が行なった大規模研究の結果を見ると、子どもの「本物のうつ病」に対しては、確かに抗うつ薬はまあまあ有効であると言える、ということになるのです。(ただし、子どもの「本物のうつ病」はほとんどいなくて、大部分は「ただの不幸な子ども」であることには注意が必要です。 こうした「ただの不幸な子ども」が本当に必要としているのは抗うつ薬などではなく、幸せになれる環境なはずだからです。)

 

いずれにしろ、この問題はまたしても「研究」というもののあり方、特に製薬会社主導の金銭的な損得が絡んでしまう研究というもののあり方を考えさせられるものではあります。