今日、頭を通り過ぎていったこと…

もうしょうがないので、ジャンルを限定せずに…

抗うつ薬は本当に「うつ病」に効くのか?

本当は最新のAm J Psychiatryに掲載されていた論文、抗うつ薬は本当に子どものうつ病に効かないのか? という話題を議論したかったのですが、その前に…

 

1990年代くらいからだったでしょうか、それまでの三環系抗うつ薬と呼ばれていた副作用の多い、使いにくい抗うつ薬に変わって、「第2世代抗うつ薬」とも呼ばれるSSRISNRIといった抗うつ薬が広く売り出されるようになりました。 これらは、抗うつ効果自体は古い薬とそれほど変わらなかったものの、副作用が圧倒的に少なく、安全性が圧倒的に高いこともあって、あっという間に主力になったのでした。

 

ところが、こうした「抗うつ薬」を売り出す前に、製薬会社はその薬が本当に効くことを証明して見せなくてはいけません。 いわゆる臨床治験です。 ほとんどの場合、ひろく「うつ病」の患者をつのり、今後売り出そうとしている本物の「抗うつ薬」を与えて治療をする場合と、偽物の「プラセボ」を与えて治療をします。 何週間も追跡調査をして「うつ病」症状の改善度合いを比較して、本物の「抗うつ薬」の方が実際に「プラセボ」に比較して圧倒的に症状が治っていくことを証明してみせるわけです。

 

ところが…。 ここにこの業界ではよく知られた怪現象(?)があります。 1つは、プラセボを与えられた患者が意外なほどに症状改善していくということ。 あまりに「プラセボ」での改善率が良いので、本物の「抗うつ薬」との差がほとんどつかないほどになってしまうことが少なくないくらいです。 そのうえ、もう1つとして、こうした本物の抗うつ薬プラセボとの差のつかなさは、近年どんどんひどくなっていて、近年どんどん「効果に有意差なし」という結果が出てしまうようになっている、ということです。 なぜ、最近になればなるほど、差がつかなくなってきているのか? なぜ、そもそもプラセボでこんなに症状改善してしまうのか?

 

例として、一番最近に日本に導入された(とはいえ、世界では随分前から使い古されてきた)ベンラファキシン(商品名;イフェクサーSR)の治験の結果を図示します。

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この通りです。 確かに「本物の抗うつ薬」である「イフェクサー」もうつ病症状のスコアが改善していますが、抗うつ効果など全くないはずの「プラセボ」でも、ほとんど僅差というくらいによくなっているじゃないですか。

 

ってことは、「抗うつ薬」が「うつ病」に効くというのはまやかしだったのか? プラセボとほとんど僅差しかつかないくらいのものでしかないのか? それで薬価をぼったくっているのか?

 

この怪現象の謎はずいぶん以前から専門家の間で議論されてきました。 そもそも、なぜこんなに「プラセボ」の反応率が良いのか? いくらなんでもオカシイではないか?

 

その理由として、よく考えられているのが、「治験」という調査・研究の仕方の信用できなさです。

 

製薬会社としては、新しい薬を売り出すのに「治験」は避けて通れません。 でも、開発コストを抑えるために、できるだけ短期間で、できるだけ面倒臭くない方法で、できるだけお手軽に、データを集めなくてはならないのです。

そこで、製薬会社はデータ集めを大学病院やその他の医療機関に丸投げするわけですが、そこでは決して厳密なデータ収集の手続きが取られるわけではありません。 ぶっちゃけた言い方をすると、インスタント研究者がインスタント研究をするわけです。

しかも、すでにお話ししたように、「治験」では必ず「プラセボ」を使われてしまう不幸な患者が約半数も出ます。 このため現場の医者はためらうわけです。 「うつ病」の症状が急激に悪化している、本格的な「うつ病」は患者に何かあっては良くないので、「治験」から外すことになります。 結果として、「うつ病」と言えないこともないけど、それほど急激に悪くなっているわけでもなく、臨床的に「まあまあ安心してみていられる」慢性的な経過の患者(こういうのは、大抵は本物の「うつ病」ではなく、「抑うつ神経症」の人たちです)を「治験」に導入しがちなことになります。 ここからして、すでに間違いです。 治験ではない、本当の臨床現場では、本当に「抗うつ薬」を使わなくてはいけないのは「うつ病」であって「抑うつ神経症」ではないからです。

さらに、欧米の治験では「職業患者」の存在が知られています。「治験」に患者として参加することで得られる金銭的な利益をあてにして、それを生業のように次々に「治験」に参加している人たちの存在です。 当然、彼らの「うつ病」は急激な経過をとっておらず慢性的なものでしょうし、そもそもうつ病」としての症状があることさえ嘘かもしれません。 そうした「偽物患者」の存在が治験のデータを狂わせている可能性は無視できないほど大きいのです。

 

そんなこんなの背景がおそらくはあって、それでこんなに馬鹿みたいに「プラセボ効果」が高い結果になってしまっているのではないか? と考えられます。 いずれにしろ、こんなに「プラセボ」の反応率が高いようでは、研究のやり方に問題があるのではないかとの疑いが残り、データとして信用できないのです…。