今日、頭を通り過ぎていったこと…

もうしょうがないので、ジャンルを限定せずに…

酒と泪と男と女…って。

https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2016.16050589

 

Divorce and the Onset of Alcohol Use Disorder: A Swedish Population-Based Longitudinal Cohort and Co-Relative Study

 

いわゆるビッグデータを使った精神科疾患の大規模研究の分野では度々出てくるKendler先生たちのこの研究では、スウェーデンの人たちのデータを使って、離婚の前後でアルコール乱用がどれだけ増えるかを検証しています。

 

以前から、離婚とアルコール乱用には相関があることが知られていたのですが、問題はその因果関係でした。 普段からアルコール乱用なんかしているから、相手に離婚されてしまうのか? あるいは離婚が辛くてアルコール乱用に逃げてしまうのか? あるいは、その両方か?

 

まあ、この研究の結果、どうやら両方ありそうなことが示されていました。 そもそも「離婚」によらない配偶者との離別である「死別」でも、「離婚」ほどじゃないにしろ、アルコール乱用が増えることも示されていました。 それでも、もともとアルコール乱用の癖があるとか、あるいはアルコール乱用に陥りやすい性格傾向をしているから、離婚という事態が引き起こされた、とい因果関係もまた十分にありそうでした。

 

まあ、いずれにしろ、若い頃に失恋するたびに「やけ酒」をやった人は多いんじゃないでしょうか。 これがアルコール乱用となると、ちと問題ですが。

あれ? もしかすると今の若い人たちは失恋してやけ酒なんて行動パターンは持ってないですかね? そもそも、そんな失恋につながるような恋はしないとか? …それはそれで大問題でしょうが。

 

 

 

子どもの「うつ病」に抗うつ薬は効かないのか?

https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2017.16091059

 

Antidepressant Efficacy for Depression in Children and Adolescents: Industry- and NIMH-Funded Studies

 

最新のAm J Psychiatryの記事からです。 「子どもには抗うつ薬が効かない、効く可能性は低い、と言われているが、本当なのか?」という問いです。

 

そもそも、なぜこんな問いがあるのか?というと、主には製薬会社が行なった臨床試験の結果として、子どもの「うつ病」に対してはSSRIなどの現在の主力の抗うつ薬はあまり効果がない、ということになっているからです。 ところが、製薬会社ではなく、国が主導してちゃんとした研究者が行なった大規模研究の結果は、子どもの「うつ病」に対してもSSRIなどの主力抗うつ薬はかなりちゃんとした効果を期待できる、ということになっています。

 

いったい、なぜこんなに結果の違いを生じているのか? しかも、製薬会社の行なった研究が製薬会社の利益になるような結果(子どもにも効く)となるなら「ああ、スポンサー効果ね…」(これはこれで問題なのですが、臨床研究では必ず起こってくる問題です)と納得できる(?)のですが、意外や意外、製薬会社の行なった研究結果では「あまり効果なし」であり、国が行なった研究結果では「ちゃんと効果あり」となっているので、ますます謎なのです。

 

一昔前は、それどころか「子どもにも抗うつ薬を使うと自殺のリスクが高まる」という誤解もありました。(今の時代、もはやこんな誤解を信じている専門家はいないでしょう。 しかし素人の方はまだ信じているかもしれません。この問題の真相究明の話は、それはそれで面白いので、いずれまた取り上げるかもしれませんが、結論だけ言うと、抗うつ薬を使って治療をしていくと「自殺のリスクが高まる」のではなく「自殺をしたい気持ちがあることを伝える行動が増える」というのが答えです。 ちなみに、「うつ病」に対して「認知行動療法」を行なっても、当然のように「自殺をしたい気持ちがあることを伝える行動が増える」ことが知られており、これはたぶん自殺リスクの上昇を意味しているのではなく、ただ治療が進んでいること、コミュニケーションが改善していっていることを意味しているのだろう、と言うのがオーソドックスな読みです。)

そのうえ、「子どもには抗うつ薬が効かない、あるいは効きが悪い」となったら、そりゃ一般の臨床医は子どもに抗うつ薬なんか使いたくなくなります。 親だって使わせたくなくなります。 たとえ副作用がほとんどなかったとしても、お金の無駄ですから。

 

では、真相はいったいどうなっているのか?

 

その議論をしているのが、上記論文でした。

 

その答えは、まあまあ当たり前といえば当たり前、「製薬会社の行う臨床試験は、良い加減すぎてデータの集め方に問題がありすぎて、信用できないものになってしまっている」ということです。

その根拠の一つが、「本物の抗うつ薬」ではなく「偽物の薬=プラセボ」を与えられた子どもの症状改善率の異常な良さです。 つまり、やく50%もの「プラセボ」を与えられただけの子どもたちが、平気で症状が改善しているのです。 …ってことは、この子どもたちは、本当に「うつ病」だったの? と言うことになります。

 

それ以前から、専門家の間では、しばしば「子どもという年齢で、本当に「うつ病」なんて存在するのか? それは大人のうつ病と同じ種類の問題とみなして良いのか?」という議論がありました。 理由は簡単です。 子どもに見られる「心の問題」の大部分が、その子自身の問題ではなく、実際には両親の問題、家族の問題の反映にしかすぎないからです。 (このため、思春期前の子どもの心理的な問題に対しては、その子自身を対象とする精神療法よりも、家族を対象とする家族療法の方が効果が大きいことが少なくないのです。)つまり、一見すると「子どものうつ病」のように見えている問題は、実際には家族の問題で不幸になっているだけ、なのではないか? と言うことです。

 

では、製薬会社が行なった臨床研究にはどんな問題があったか? 上記論文が問題視するのは、金銭的なインセンティブです。 製薬会社は開発した薬のパテントが切れるまでに開発コストを回収し、利益を最大限に得なくてはなりません。 この頃の米国では、政府が「子どものうつ病に対して抗うつ薬が有効かどうかを証明しなさい。証明できたら、パテントの有効期間を延長してあげる(その薬の売り上げで儲けさせてあげる)」と製薬会社に要求してきたのです。 製薬会社はこぞって「子どものうつ病に対する有効性」を確認するための臨床研究を即席でスタートしました。 即席でスタートしたうえに、開発コストを抑えるために、またしてもインスタント研究者を使い、データ収集を各医療機関に丸投げしました。 もともと「本物の子どものうつ病」などそう多くはないと見られています。 しかし、製薬会社は儲けを得るために必死ですから、「本物のうつ病」かどうかは別にして、「なんか鬱っぽくなってしまっている子ども」でもなんでも、とにかく対象患者数を増やすために臨床研究に入れたのではないか?と見られます。 つまり、製薬会社が行なった「子どものうつ病」の臨床研究は、本当は「本物のうつ病」の子どもではなく、「(家庭環境やらなんやら、いろいろな理由で)不幸になっている」子どもだったのだろう…ということです。 だからこそ、「プラセボ」でのあの反応率の良さなのです。(これに比べて、国が行なったちゃんとした大規模研究では、プラセボ反応率は20〜30%程度におさえられているのです。)

 

結論として、製薬会社の行なった研究結果はクオリティが低すぎて信用できるものではない。 より信用できる国が行なった大規模研究の結果を見ると、子どもの「本物のうつ病」に対しては、確かに抗うつ薬はまあまあ有効であると言える、ということになるのです。(ただし、子どもの「本物のうつ病」はほとんどいなくて、大部分は「ただの不幸な子ども」であることには注意が必要です。 こうした「ただの不幸な子ども」が本当に必要としているのは抗うつ薬などではなく、幸せになれる環境なはずだからです。)

 

いずれにしろ、この問題はまたしても「研究」というもののあり方、特に製薬会社主導の金銭的な損得が絡んでしまう研究というもののあり方を考えさせられるものではあります。

抗うつ薬は本当に「うつ病」に効くのか?

本当は最新のAm J Psychiatryに掲載されていた論文、抗うつ薬は本当に子どものうつ病に効かないのか? という話題を議論したかったのですが、その前に…

 

1990年代くらいからだったでしょうか、それまでの三環系抗うつ薬と呼ばれていた副作用の多い、使いにくい抗うつ薬に変わって、「第2世代抗うつ薬」とも呼ばれるSSRISNRIといった抗うつ薬が広く売り出されるようになりました。 これらは、抗うつ効果自体は古い薬とそれほど変わらなかったものの、副作用が圧倒的に少なく、安全性が圧倒的に高いこともあって、あっという間に主力になったのでした。

 

ところが、こうした「抗うつ薬」を売り出す前に、製薬会社はその薬が本当に効くことを証明して見せなくてはいけません。 いわゆる臨床治験です。 ほとんどの場合、ひろく「うつ病」の患者をつのり、今後売り出そうとしている本物の「抗うつ薬」を与えて治療をする場合と、偽物の「プラセボ」を与えて治療をします。 何週間も追跡調査をして「うつ病」症状の改善度合いを比較して、本物の「抗うつ薬」の方が実際に「プラセボ」に比較して圧倒的に症状が治っていくことを証明してみせるわけです。

 

ところが…。 ここにこの業界ではよく知られた怪現象(?)があります。 1つは、プラセボを与えられた患者が意外なほどに症状改善していくということ。 あまりに「プラセボ」での改善率が良いので、本物の「抗うつ薬」との差がほとんどつかないほどになってしまうことが少なくないくらいです。 そのうえ、もう1つとして、こうした本物の抗うつ薬プラセボとの差のつかなさは、近年どんどんひどくなっていて、近年どんどん「効果に有意差なし」という結果が出てしまうようになっている、ということです。 なぜ、最近になればなるほど、差がつかなくなってきているのか? なぜ、そもそもプラセボでこんなに症状改善してしまうのか?

 

例として、一番最近に日本に導入された(とはいえ、世界では随分前から使い古されてきた)ベンラファキシン(商品名;イフェクサーSR)の治験の結果を図示します。

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この通りです。 確かに「本物の抗うつ薬」である「イフェクサー」もうつ病症状のスコアが改善していますが、抗うつ効果など全くないはずの「プラセボ」でも、ほとんど僅差というくらいによくなっているじゃないですか。

 

ってことは、「抗うつ薬」が「うつ病」に効くというのはまやかしだったのか? プラセボとほとんど僅差しかつかないくらいのものでしかないのか? それで薬価をぼったくっているのか?

 

この怪現象の謎はずいぶん以前から専門家の間で議論されてきました。 そもそも、なぜこんなに「プラセボ」の反応率が良いのか? いくらなんでもオカシイではないか?

 

その理由として、よく考えられているのが、「治験」という調査・研究の仕方の信用できなさです。

 

製薬会社としては、新しい薬を売り出すのに「治験」は避けて通れません。 でも、開発コストを抑えるために、できるだけ短期間で、できるだけ面倒臭くない方法で、できるだけお手軽に、データを集めなくてはならないのです。

そこで、製薬会社はデータ集めを大学病院やその他の医療機関に丸投げするわけですが、そこでは決して厳密なデータ収集の手続きが取られるわけではありません。 ぶっちゃけた言い方をすると、インスタント研究者がインスタント研究をするわけです。

しかも、すでにお話ししたように、「治験」では必ず「プラセボ」を使われてしまう不幸な患者が約半数も出ます。 このため現場の医者はためらうわけです。 「うつ病」の症状が急激に悪化している、本格的な「うつ病」は患者に何かあっては良くないので、「治験」から外すことになります。 結果として、「うつ病」と言えないこともないけど、それほど急激に悪くなっているわけでもなく、臨床的に「まあまあ安心してみていられる」慢性的な経過の患者(こういうのは、大抵は本物の「うつ病」ではなく、「抑うつ神経症」の人たちです)を「治験」に導入しがちなことになります。 ここからして、すでに間違いです。 治験ではない、本当の臨床現場では、本当に「抗うつ薬」を使わなくてはいけないのは「うつ病」であって「抑うつ神経症」ではないからです。

さらに、欧米の治験では「職業患者」の存在が知られています。「治験」に患者として参加することで得られる金銭的な利益をあてにして、それを生業のように次々に「治験」に参加している人たちの存在です。 当然、彼らの「うつ病」は急激な経過をとっておらず慢性的なものでしょうし、そもそもうつ病」としての症状があることさえ嘘かもしれません。 そうした「偽物患者」の存在が治験のデータを狂わせている可能性は無視できないほど大きいのです。

 

そんなこんなの背景がおそらくはあって、それでこんなに馬鹿みたいに「プラセボ効果」が高い結果になってしまっているのではないか? と考えられます。 いずれにしろ、こんなに「プラセボ」の反応率が高いようでは、研究のやり方に問題があるのではないかとの疑いが残り、データとして信用できないのです…。

 

 

抗うつ薬の過量服薬の危険性は薬によって違う

https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2016.16050523

 

Morbidity and Mortality Associated With Medications Used in the Treatment of Depression: An Analysis of Cases Reported to U.S. Poison Control Centers, 2000–2014

 

最新のAm J Psychiatry, 2017; 174 5月号の記事。抗うつ薬などの過量服薬(自殺企図としてのOD)による危険性は、抗うつ薬の種類によってそれなりに差があり、やはり、古い三環系抗うつ薬は(アナフラニールを除き)危険性が高いということ、新しいSSRISNRIは危険性が低いものの、これもモノによって差があり、新しい中ではイフェクサーが危険性が高いこと…などが示されています。

 

まあ、過量服薬などしなければ良いような話ではあるのですが、この手の薬を使う人たちの中には少なからず過量服薬をしがちな人たちがいるのが事実です。

 

その意味では、イフェクサーは、日本においては欧米からずいぶん遅れて、わりと最近日本では新発売された薬ですが、…まあ散々です。 新発売なので高い薬ですが安全性がこれじゃあ…というところでしょう。

 

もっとも、イフェクサーは日本では新しい薬ですが、海外ではすっかり古びた薬になっているので、仕方ないところではあるでしょう。